死はありふれている。別れもありふれている。
地球はおかまいなしにくるくると自転し、太陽光線はサンサンと地球に影をつくる。
影は形を変える、ふとあなたがいるような、そんな気がして振り返る。
その年の桜は煌々と咲き乱れ、風は優しく吹いていた。
17の春、桜の花びらよりも先にあなたは散っていった。数日後、僕だけが18になった。
中2の夏、朝日の射し込む電車に揺られながら聴かせてくれたリストのピアノ曲。孤独の中の神の祝福。
右耳に響く旋律よりも誰もいない電車の静けさと白いシャツが朝日をはね返してまぶしかったことを思い出す。
あなたは美しいものをたくさん教えてくれた。同じだけ酷い現実のことを教えてくれた。
雨上がりに射し込む夕日に地面は光で溢れ、子たちは水飛沫を撒き散らす。
木漏れ日が風に揺らぐ。木々のざわめく音、かすかに聞こえる踏切の音。
一瞬だけピタリと風が止み、水溜りで歪んでいた空が美しい像を結ぶ。
どこからか薫る煙の匂いと若草の苦そうな臭い。
窓際に立つ少女は目が眩むほど強い光を受けていた。
日常のあちらこちらにあなたが見え隠れする。あなたがどう返してくるのかを思い描ける。
思い描くのに、宗教とか神とか大層なものはいらない。
ただ思い出があればそれだけで。
そういう意味ではもう会えない他人と死者に大した違いなんてないのかもしれない。
会えないから終わりなんてつまらない、会わなくても続いている。
僕はありふれたものの中にあなたを溶かしている。おだやかな海に溶けているあなたを。
恋心でも友情でもなく、ただ一緒にいた時間の破片をありふれた日常に重ねることがいまは楽しい。
海に花束を。
いつか薄れていくその時まで。